ドイツの「小選挙区比例代表併用制」とは?

国際

2017年9月24日、ドイツの下院に相当する連邦議会の総選挙が4年ぶりに行われました。メルケル首相の所属する「キリスト教民主同盟」(CDU)が今回も第一党を維持する見込みとのことですが、今回はドイツ連邦議会の選挙はどのように行われているのかを調べてみました。

ドイツの政治制度は?

本題に入る前に、ドイツの政治制度について簡単に確認しておきましょう。

大統領と首相の両方がいる国

ドイツには、大統領と首相という両方の役職があります。

シュタインマイアー大統領 メルケル首相
Frank-Walter Steinmeier Feb 2014 (cropped) Angela Merkel (August 2012) cropped

 いずれも2017年9月24日現在
ドイツの大統領は原則として政治的な実権を有しておらず、ドイツの政治は大統領の推薦に基づき下院議員の中から過半数の賛成によって選ばれる首相が担います。
このことから、ドイツは大統領職がありながらも、議院内閣制の国家であるということができるでしょう。

上院は「選挙なし」「任期なし」

ドイツの上院にあたる「連邦参議院」は、69名という定数は決まっていますが、議員は各州の政府から派遣されるために選挙はなく、議員は随時入れ替わっていくため任期も特に決まっていません

日本やアメリカでは、上院議員(日本では参議院議員)も選挙で選ばれ、任期も決まっています(6年)。
一方で、イギリスの上院(貴族院)はドイツと同様に選挙も任期もありませんが、定数も決まっていません。

小選挙区比例代表「併用制」とは?

ドイツ連邦議会の選挙は小選挙区比例代表併用制という制度によって行われています。

「併用制」と「並立制」

日本の衆議院の選挙制度は、もちろんご存知の通り小選挙区比例代表並立制ですね。
「併用制」と「並立制」の違いは、以下の点にあります。

  • 併用制:比例代表によって議席を割り振り、比例代表の当選者決定に小選挙区の結果を用いる
  • 並立制:小選挙区の結果は、(重複立候補を除いて)比例代表の結果に影響しない

簡単に言えば、「併用制」は比例代表の結果によって全体の議席数が割り振られ、「並立制」は小選挙区と比例代表で議席が別々に割り振られるという違いがあります。

日本の衆議院の「並立制」は、小選挙区289人+比例代表176人=合計465人(2017年~)と割り振られているため、全体としては小選挙区がメインの選挙制度であると言えるでしょう。

もし衆議院が「併用制」だったなら?

「並立制」と「併用制」では結果にどのような差が出るのか、2014年12月に行われた前回の衆議院議員選挙の東京都での結果をもとに試算してみました。

「並立制」での結果

東京都には25の小選挙区が設けられ、比例代表の定数は17と定められているため、全体での定数は42となります。

自民 民主 公明 共産 社民 幸福 生活 改革 維新 次世
小選挙区での
獲得議席数
22 1 1 0 0 0 0 0 1 0
比例代表での
獲得議席数
6 3 2 3 0 0 0 0 3 0
合計獲得議席数 28 4 3 3 0 0 0 0 4 0
議席占有率 66.7% 9.5% 7.1% 7.1% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 9.5% 0.0%

「併用制」での結果

まずは、定数を42と考え、比例代表の結果をもとに議席を配分します。

自民 民主 公明 共産 社民 幸福 生活 改革 維新 次世
得票数 1,847,986 939,795 700,127 885,927 129,992 17,648 156,170 16,597 816,047 253,107
獲得議席数 14 7 5 7 1 0 1 0 6 1
議席占有率 66.7% 9.5% 7.1% 7.1% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 9.5% 0.0%
ドイツでは「サン=ラグ/シェーパース方式」という方法で議席配分がされていますが、ここではわかりやすさを重視し、日本で用いられている「ドント式」で議席配分を計算しています。(もしよければご自分で計算してみてください。)

次に、この議席配分に小選挙区の結果を考慮します。ドイツの「併用制」には、「超過議席」とよばれる制度があり、小選挙区での当選者数が比例代表での当選者数を上回った場合には、定数を超えて小選挙区での当選者全員が当選します。

自民 民主 公明 共産 社民 幸福 生活 改革 維新 次世
比例代表での
獲得議席数
14 7 5 7 1 0 1 0 6 1
小選挙区での
獲得議席数
22 1 1 0 0 0 0 0 1 0
合計獲得議席数 22 7 5 7 1 0 1 0 6 1
自民党は比例代表で14の議席が割り振られていますが、実際には22人の当選者が出ています。この差分の「8」が超過議席であり、定数42に対して50人が当選することになります。

結果を比べてみる

  • 小選挙区制:大政党に有利で二大政党化しやすい。
  • 比例代表制:小政党でも議席が獲得しやすく、多党化傾向になる。

というのは有名な話ですが、「得票率」と「並立制」での議席占有率と「併用制」での議席占有率を比べてみましょう。

自民 民主 公明 共産 社民 幸福 生活 改革 維新 次世
得票率 32.1% 16.3% 12.1% 15.4% 2.3% 0.3% 2.7% 0.3% 14.2% 4.4%
並立制 66.7% 9.5% 7.1% 7.1% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 9.5% 0.0%
併用制 44.0% 14.0% 10.0% 14.0% 2.0% 0.0% 2.0% 0.0% 12.0% 2.0%

この表からは、

  • 「並立制」は小選挙区中心であるので、大政党に有利になり、特に第一党(ここでは自民党)の議席占有率が大きくなる。
  • 「併用制」は得票率と議席占有率が「並立制」よりも近く、小政党(ここでは社民党・生活の党・次世代の党)も議席を獲得できている。
  • 「併用制」では超過議席が認められているため、第一党(ここでは自民党)の議席占有率は得票率よりも若干大きくなる。

といった特徴を見て取ることができるでしょう。

実際のドイツの選挙には、得票率が5%に満たない政党の議席獲得を認めない阻止条項がありますが、ここではわかりやすくするために無視しています。

「ドイツは比例代表制中心の制度で、多党化しやすく連立政権が形成されている」という言い方を、授業などではされることが多いかと思いますが、実際の制度を具体的に検証してみると、そのことが納得できますね。